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France's President Emmanuel Macron gestures as he delivers a speech at New Caledonia's High Commissioner residency in Noumea on May 22, 2024, during his trip to the Pacific archipelago in an attempt to resolve a political crisis. (©Ludovic Marin/Pool via Reuters)
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南太平洋のフランス領ニューカレドニアで、地方参政権をめぐる憲法改正反対を理由にした暴動が起きた。ニューカレドニアは日本では映画などで「天国にいちばん近い島」として知られる。
混乱が長引けば影響力拡大を狙う中国の干渉を呼びかねない。仏政府は事態の沈静化に努めるべきだ。
先住民族は人口の4割を占める。選挙での彼らの比率を下げないよう、地方参政権は1998年以前に住んでいた人々などに限られていた。
仏本国の議会が、ニューカレドニアに10年以上居住する住民にも地方参政権を拡大する憲法改正案をつくったところ先住民の独立派が撤回を求めて暴動が始まった。建物や車への放火が相次ぎ、複数の死者が出た。在留邦人は航空機で退避した。
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仏政府には、旧ソ連のアゼルバイジャンがソーシャルメディアなどを通じて暴動を煽(あお)ったとの見方がある。フランスが、アゼルバイジャンと犬猿の仲のアルメニアを軍事支援しているからだ。
マクロン仏大統領はニューカレドニアを訪問し、憲法改正を強行しないと約束した。非常事態宣言は解除された。
こうした中、仏政府が警戒するのは中国だ。ニューカレドニアでは、フランスからの独立を問う住民投票が2018年以来3度実施され、いずれも否決された。だが独立派は活動を続けている。仏国防省傘下の研究機関は「独立派は中国の影響下にある」と指摘した。
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ニューカレドニアは重要鉱物ニッケルの生産で世界3位だ。ニッケルは電気自動車(EV)のリチウムイオン電池などの材料で需要増が見込まれている。日本も多くのニッケル鉱石をニューカレドニアから輸入している。独立派はニッケル資源があるため独立可能と算盤(そろばん)をはじいている。
ニューカレドニアが独立して親中政策をとれば、ニッケルの国際供給網や軍事バランスが崩れる。オーストラリア東方に位置するため、中国海空軍による情報収集や米豪の交通遮断の根拠地になる恐れがある。
フランスが太平洋国家の性格を失って、インド太平洋への関心が揺らげば対中抑止が弱まる。日米豪は仏と連携し、ニューカレドニアの安定に協力していくべきだ。
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2024年5月30日付産経新聞【主張】を転載しています